学習発表会台本『杜子春』
(第1幕~第4幕/演出・効果音・チャプター付き/高学年向け・約20分想定)
◆ 登場人物(目安15人・増減可)
1. 杜子春(主人公)
2. 語り手(ナレーション)
3. 老人(仙人)
4. 王さま
5. 家来A
6. 家来B
7. 町人A
8. 町人B
9. 町人C
10. 町人D
11. 町人E
12. 母
13. 鬼A
14. 鬼B
15. 鬼C
◆ 上演時間ガイド
第1幕 5分/第2幕 5分/第3幕 7分/第4幕 3分(演技の間・移動・効果音込みで20分前後)
第1幕「没落の春」
杜子春が財を失い、町人たちの視線にさらされる。街のざわめき、時間の流れを「間」で見せる
。
【効果音・音楽】 風/遠い鐘/足音のループ/ざわざわ(小声)
【演出】 舞台は薄橙の明かり。杜子春は中央で座り込む。町人A~Eは左右客席側通路から入場
し、観客の前を横切ってから舞台へ。
語り手 「或る春の日暮れのことです。洛陽の西の門の陰に、杜子春という若者が、空を仰いで座
っていました。」
町人A 「あれ、杜子春じゃないか?(指差す)」
町人B 「昔は金持ちで、毎晩のように賑やかだったって噂の人だろ。」
町人C 「いまじゃ着物もほころびだ。借金だって残ってるらしい。」
町人D 「人は金で変わる。持てば寄って、無ければ離れる。」
町人E 「でも、あの人は……どこか優しい目をしてる。」
【演出】
町人たちは半円に散り、観客に向かって交互にセリフ。各セリフの後「ざわ…」と一拍。
語り手 「杜子春は、声を失ったように、ただ黙っていました。」
杜子春 「(ゆっくり顔を上げ)どうして私は、こんなにも空しいのだろう……。」
町人A 「欲が深かったからだ。贅沢しすぎた。」
町人B 「友だちも去ったのか?」
杜子春 「(小さく)友だち……本当の友は、どこにいるのだろう。」
【演出】 【間】3秒沈黙。風の音を少し強める。
語り手 「そのとき――」
【演出】 チリン……(鈴の澄んだ音)
老人(仙人) 「杜子春よ。」
杜子春 「(驚いて)どなたです?」
老人(仙人) 「おぬしの嘆きを聞いていた。金に心を縛られてはならぬ。」
町人C 「誰だ、急に現れて……(ひそひそ)」
老人(仙人) 「立て。空を仰ぐだけでは、何も見えぬ。」
杜子春 「立ち上がる……? 私に、まだ道があるというのですか。」
老人(仙人) 「道はいつでも目の前にある。ただ、心が曇ると見えなくなるだけだ。」
【演出】 杜子春、ゆっくり立ち上がる。スポットを強めに。
語り手 「こうして杜子春は、もう一度歩き出すことにしたのです。」
【演出】 暗転【2秒】→ 次幕へ
第2幕「仙人との再起と宴」
仙人が金の虚しさと心の宝を説く。杜子春は再起し、王に召し出され宴が開かれる。人の手のひ
ら返しを群読で表現。
【効果音・音楽】 笛/太鼓/手拍子/歓声SE
【演出】 明かりは徐々に明るく。背景は金色の布や紙で華やかに。
老人(仙人) 「金は道具にすぎぬ。道具に使われるのではなく、道具を使いこなすのだ。」
杜子春 「もし、また富を得ても、私は同じ過ちをくり返すでしょうか。」
老人(仙人) 「おぬしの心次第だ。富は心の鏡。曇れば曇り、澄めば澄む。」
語り手 「やがて、杜子春は働き、人に尽くし、信を集め、再び財を得ました。」
王さま 「杜子春よ、よくぞ立ち直った。われはおぬしを重く用いる。」
家来A 「お館様、祝宴の用意が整いました!」
家来B 「笛と太鼓を。皆の者、手を打て!」
【演出】 笛、太鼓、手拍子(3小節ほど)
【演出】 宴の所作:杯を受け渡す、笑う、拍手。舞台下手から上手へ練り歩き。
町人A 「さすが杜子春さまだ!」
町人B 「いやぁ、昨日の顔とは違う。」
町人C 「人の心って不思議だね。金があれば笑い、無ければ背を向ける。」
町人D 「(観客に)みんなはどう思う? それでいいのかな?」
町人E 「……私は、金より、心を見たい。」
杜子春 「(独白)笑い声の渦の中で、なぜか胸が静かだ。私の心は、どこへ向かうのだろう。」
王さま 「杜子春、これから先も民のため尽くせ。富は民と流れる川のように使うのだ。」
杜子春 「はっ。肝に銘じます。」
語り手 「だが、夜の帳が下りるころ――杜子春の前に、再び影が揺れました。」
【演出】 明かりを落とし、宴の人々はスローモーションで退場。雷の薄いSEから次幕へ。
第3幕「試練の夜」
鬼たちが現れ、鞭、火の車、針山の試練を与える。母が連れて来られ、声を出せば母を罰すると
いう究極の試し。
【効果音・音楽】 雷鳴/ドン!(太鼓)/車輪/風/金属音/静かな笛・鐘
【演出】 暗転後すぐ雷鳴。青と赤の照明。舞台奥から鬼A~Cが大股で登場。
鬼A 「杜子春! 覚悟はよいか!」
鬼B 「心の底まで見せてもらうぞ!」
鬼C 「まずは――鞭だ!」
【演出】 ドン! バシッ!(太鼓+板を叩く音)×3
杜子春 「うあっ……! しかし……耐える……(膝をつく)」
鬼A 「火の車、用意! 回せ、回せ、回せ!」
【演出】 ゴロゴロ……(車輪)+風音
【演出】 杜子春、円を描いてゆっくり回る所作。苦痛の表情。
杜子春 「体が裂けるようだ……けれど、声を出すものか……」
鬼B 「針山だ。這い上がれ!」
【演出】 金属のきしみ、風。
杜子春 「(息を切らし)痛い……でも、心は諦めない……」
鬼C 「面白くなってきた。――母を連れてこい!」
【演出】 照明を落とし、柔らかなスポット。母がゆっくり現れる。静かな笛と鐘。
母 「子春……どうか、声を……出しては……なりません……」
杜子春 「母上! (一歩踏み出し、止まる)」
鬼A 「声を出したら、罰はこの女に! さあ、どうする!」
【演出】 【間】沈黙5秒。杜子春、拳を握りしめ、震える。
杜子春 「(心の声・観客に向け)叫びたい! 助けたい!
でも――耐えることが、母を守る道なのだ……」
母 「私は大丈夫……。おまえの心が、強くなるのを……見ている……」
鬼B 「まだ沈黙を守るか。ならば――さらに!」
【演出】 ドン! ドン! ドン!(太鼓を連打、3拍の後、静寂)
【演出】 この静寂を長めに(3~4秒)。観客にも息を止めさせるくらいの間。
鬼C 「……フン。」
鬼A 「ここまでだ。こやつ、声を出さなんだ。」
鬼B 「試練は終わりだ。退け!」
【演出】 鬼たち、後退。青赤の照明から白へ。鐘の音。仙人が現れる。
第4幕「覚醒と帰結」
仙人が教えを述べ、杜子春は心の宝に気づく。群読で締め、観客へメッセージ。
【効果音・音楽】 鈴/静かな笛/終幕の太鼓
老人(仙人) 「よく耐えた。おぬしは、声を出すよりも難しい沈黙を選んだ。」
杜子春 「母の息遣いが、心の奥で私を支えました。金では買えないものがあると、はっきりわか
りました。」
老人(仙人) 「覚えておけ。富は道具、心は羅針盤。道具は羅針盤の指す方へ使うのだ。」
語り手 「こうして杜子春は、心の宝を知り、歩き出しました。」
町人A 「わたしは、人を見かけで決めつけないようにしたい。」
町人B 「わたしは、困っている人に声をかけたい。」
町人C 「わたしは、手のひらを返す自分に気づいたら、直したい。」
町人D 「わたしは、富を正しく使いたい。」
町人E 「わたしは、だれかの心の支えになりたい。」
杜子春 「私は、母のように、人を想う心を忘れません。」
全員(群読) 「「人の心は、金よりも尊い。」」
【演出】 一呼吸おいて、全員で観客に向かって一礼。
【演出】 太鼓 ドン! 鈴の余韻。
語り手 「ご覧いただき、ありがとうございました。」
【演出】 幕。
◆ 舞台セット・小道具(簡易)
– 背景:色照明で夕→金色→青赤→白の変化を作る。
– 小道具:杯、扇、布(金色/赤)、太鼓またはカホン、板(鞭SE用)、鈴、棒(針山演技の支え)。
– 鬼の面や腕章(色違いでA/B/C)、仙人用の杖。
– 幕間の転換は出演者が演技の流れで行い、止まらない。
◆ 時間調整のヒント
・各幕の【間】を意識して2~3秒長めに。
・宴の行進や手拍子を8~12小節に延長可。
・第3幕の沈黙(母の場面)を5~7秒に延ばすと緊張感が増す。
・群読は二度くり返す演出も可(客席とコール&レスポンス)。